楕円積分や√cos の積分のあれこれ
こんにちは。たしです。
前記事で の弧長や の積分について書いたので、今回はそれにまつわる内容をいくつか加筆しておこうと思います。
↓前記事
sinの弧長は円周率とレムニスケート周率で表せる - とある数学徒の備忘録
まずは楕円積分との関係について。
楕円積分にはいくつか種類があるのですが、今回用いるのは第二種完全楕円積分 というものです。これは次の積分で表せます。
\begin{align}
E(x) = \int_0^{\frac{\pi}{2}}\sqrt{1-x^2\sin^2{\theta}} \ d\theta
\end{align}
これは前記事の の積分と酷似していますが、実際に簡単な式変形を行えば等式で結べることがわかります。
\begin{align}
\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sqrt{1+\cos^2{\theta}} \ d\theta &= \int_0^{\frac{\pi}{2}}\sqrt{2-\sin^2{\theta}} \ d\theta \\
&=\sqrt{2} \int_0^{\frac{\pi}{2}}\sqrt{1-\frac{1}{2}\sin^2{\theta}} \ d\theta \\
&=\sqrt{2}E\left( \frac{1}{\sqrt{2}} \right)
\end{align}
すなわち、
\begin{align}
\int_0^{2\pi}\sqrt{1+\cos^2{\theta}} \ d\theta &=4\sqrt{2}E\left( \frac{1}{\sqrt{2}} \right)
\end{align}
が成り立ちます。
筆者は楕円積分についてはあまり詳しくないのですが、とても有名かつ有用な関数であることは確かです。 の弧長はそのような関数の特殊値になっていたんですね。
また、楕円積分は楕円の弧長と大きく関わる関数なので、 の弧長と楕円の弧長に繋がりがある気がしてくるのですが、実は次のようなことが示せます。
楕円 の一周の長さと の一周期分の弧長は等しい。
楕円 は と媒介変数表示ができるので、これを周長を求める公式
\begin{align}
\int_a^{b}\sqrt{\left( \frac{dx}{d\theta} \right)^2 + \left( \frac{dy}{d\theta} \right)^2} \ d\theta
\end{align}
に当てはめることで、
\begin{align}
\int_0^{2\pi}\sqrt{\left( -\sqrt{2} \sin \theta \right)^2 + (\cos \theta)^2} \ d\theta &= \int_0^{2\pi}\sqrt{2 \sin^2 \theta + \cos^2 \theta} \ d\theta \\
&= \int_0^{2\pi}\sqrt{1 + \sin^2 \theta} \ d\theta \\
&= \int_0^{2\pi}\sqrt{1 + \cos^2 \theta} \ d\theta \\
\end{align}
となることが示せます。前記事から最後の積分は の弧長を求める積分になっています。(終)
↓すなわち下2つの曲線の長さは完全に等しいのです! (※縮尺が異なるかもしれないのでご注意ください)
これから分かることとして、三角関数の弧長を求める問題は基本的にとある楕円の周長を求める問題に帰着されます。導出を見ればやや自明ではありますが、三角関数と楕円という似て非なるものが弧長を求める上では本質的に同じである、という結果は個人的に面白く感じます。
最後にもう一つだけ面白いと思った関係式を挙げておきます。
\begin{align}
\varpi = \int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{\sqrt{\cos\theta}} d\theta = \int_0^\pi\frac{1}{\sqrt{1+\cos^2\theta}} d\theta
\end{align}
レムニスケート周率の定義である下記の積分において、 と変数変換をすれば1つ目の等号が、 と変数変換をすれば2つ目の等号が示せます。
の場合
\begin{align}
\varpi = 2\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1-x^4}} = 2 \int_{\frac{\pi}{2}}^0\frac{-1}{\sqrt{1-\cos^2 \theta}}\frac{\sin \theta}{\sqrt{\cos \theta}}d\theta =\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{\sqrt{\cos\theta}} d\theta
\end{align}
の場合
\begin{align}
\varpi = 2\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1-x^4}} = 2 \int_{\frac{\pi}{2}}^0\frac{-1}{\sqrt{1-\cos^4 \theta}}\sin \theta d\theta =2\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{\sqrt{1+\cos^2\theta}} d\theta
\end{align}
で求めることができる。(終)
この結果は単体でも面白いですが、前記事の結果と並べてみても面白いです。
\begin{align}
\frac{\pi}{\varpi} &= \int_0^{\frac{\pi}{2}}\sqrt{\cos \theta} \ d \theta \\
\varpi &= \int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{\sqrt{\cos \theta}} \ d \theta \\
\varpi +\frac{\pi}{\varpi} &= \int_0^{\pi}\sqrt{1+\cos^2 \theta} \ d \theta \\
\varpi &= \int_0^{\pi}\frac{1}{\sqrt{1+\cos^2 \theta}} \ d \theta \\
\end{align}
(対称性から、上の積分の は全て に置き換えても成り立ちます。)
上の積分はそれぞれ、逆数をとったり、積分内の形を僅かに変えたりしているにも関わらず、どれも と に関する値になっていたり、三番目の式が他の式の和で表せたりと、面白い関係になっていると思います。もしかしたら楕円関数の関係式から導けるのかもしれませんが、筆者は試していません。
この他にも無限級数表示などでも面白い結果があったのですが、文量が増えすぎるので今回はこの辺で終わろうと思います。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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